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【薄桜鬼】桜花恋語

第2章 強い男




―土方歳三 12歳。



その日は、ずいぶんと静かな夜だった。

なかなか寝付けずに、何回目かの寝返りをうった時、にわかに家の周りがざわついているのに気づいた。
何人かの大人たちが集まっているようだ。


「こんな時間にどうしたんだ…?」


気になって布団から抜け出て、物影からこっそり様子を伺えば、自分の兄である喜六やゆきの父親、近所の男たち数名が、難しい顔をして集まっているではないか。

何かあったのかと聞き耳をたてれば、聞き慣れた名前が耳に入った。


「……ゆきが、いなくなってどのくらい…」

「…わからない…気がついたらもう…」




ゆきがいなくなった…!?


漏れ聞こえる兄たちの会話から察するに、どうやらゆきが行方不明になったようだ。

こんな夜更けに、8歳の子供の行方がわからないという。



「…とりあえず、皆で手分けして…」

「俺も行く!!」

「歳三!?」


いてもたってもいれず、思わずその場に飛び出す。


「お前まだ起きて…」

「あいついなくなったんだろ?俺も探しに行く!!」

「何言ってんだ。大丈夫だから、お前は家で待ってろ」

「嫌だ!俺も行く!」

「歳三!ガキが馬鹿言ってんじゃねぇ!」




「ガキでも俺は男だ!!」




ぎっと兄を睨むように見上げて言い放てば、兄は僅かに目をみはった後、やれやれと苦笑した。


「お前まで、迷子になるんじゃねぇぞ」

「わかってらぁ!」


話が決まったところで、皆で松明を掲げ、散り散りになって捜索をはじめる。

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