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【薄桜鬼】桜花恋語

第3章 最初で最後の恋



年齢的には、別段驚くことではない。
14歳で嫁いだ姉が早かったとしても、ゆきは21歳。
むしろ遅いくらいだと言ってもいいだろう。


実は今までにも、その手の話がいくつもきていて、あいつがそのすべてを断っていたことも、知っていた。


それをついに受けたということは、ゆきも本気なんだろう。



「でも良かったわね。試衛館道場にも出入りしてる、江戸でも有名な武具屋の跡取りとの縁談らしいわよ。何でも行商にきたときに、ちょうど試衛館にいたゆきちゃんを見初めたとか…」



素敵ね、と微笑む姉に何と言ったのかわからないまま佐藤家を後にして、いつものように多摩川沿いの土手を歩く。




どこからどう見ても、良縁に違いない。


武士ににもなれず、百姓としても跡継ぎにはなれない四男坊の俺とは、比べようもない。






今までずっと、甘えていたのだ。

いつまでも夢を追いかけていいのだと、傍にいて応援してくれていた彼女に。

傷つけたくない、なんて言って。
触れることすらできない彼女を、いつまでも傍においておけるはずもないのに。

武士になるから待っていてくれ、なんてそんな不確かな言葉でゆきを縛りたくない、と己に言い訳をして。


ゆきをとって、夢を諦めることもできず。
夢をとって、ゆきを諦めることもできずに、有耶無耶にしてきたのは俺だ。



そんな自分は、ゆきが選んだ良縁ならば、喜んでやらなければならないだろう。



ぐるぐると渦巻く思考を抱えながら歩いていると、気に入りの桜の木が目に入った。
少しそこで休んでいこうかと思ったとき、すでに先客がいることに気付く。

桜の下で、ぼんやりと咲き始めの桜を眺めていたのは、正直今一番会いたくない幼馴染だった。


「…歳さん…?」

それでも、ふとこちらに気付いた彼女の元へと歩み、その隣に腰を下ろす。

「また、さぼろうとしてたの?」

ふふ、と笑むゆきの顔がまともに見れずに、ぽつり、と呟くように問う。

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