第5章 # 000000
一方的に電話を切って
それを海に投げ捨てた
「じゃあ、あの時兄さんは…」
「灯台に、居た…」
階段を登る足音に気付いて身を潜めていたんだ
僕が落ちたと思ったんだろう、落下防止の柵に身を乗り出したカズはそのまま海に落ちて…
慌てて駆け寄って
何度も名前を呼んだんだ
気が付いたら
僕も海に飛び込んでいた
「…助けようと、してくれたの…? 俺を、」
「…当たり前だ、バカ!
心臓、止まるかと思ったんだからなっ…」
馬鹿なのは僕の方だ
「聞こえたよ、兄さんの声…
それで安心したら…気を失ったのかな、そこからの記憶はないんだ
気づいたら病院のベッドの上だった…」
真っ暗な海の中は絶望的だった
でも
その時、僕が潜っていた場所を奇跡的に灯台の明かりが照らしたんだ
そして見つけ出した
僕の方へ伸びるカズの左手を
そこから先はよく覚えていない
ただ無我夢中だったという事
それだけは確かだった
カズの細い腕を
爪痕が付くほどに
強く
強く掴んで離さなかった事も