第4章 # 4n5
「着いたよ」
「此処が…」
「そう。男の二人暮らしだから片付いてないけど、どうぞ」
外観はペンション。
ウッドデッキもあって、とても工房には見えない
一歩中に入ればそこはもう作業場という言葉がピッタリな場所で
一応奥に事務所的な空間はあるけど、木のテーブルと椅子、簡易キッチンがあるだけ
「靴、ここで脱いでね」
階段脇に下駄箱はあるけど、いつも履く靴やサンダルは出しっぱなし。
中が収納になっているスツールからスリッパを2つ取り出し、自分たちはいつものクロックスに履き替えた
「クロックスからクロックスに履き替えるんですね」
発想が新しい。なんて相葉くんが感心してる
もう何年もずっとこうだけど…
階段を登るカズの背中を不思議な気持ちで見つめていた
うちに、
うちの工房に、カズが居る。
こんな日が来るなんて思ってもみなかったよ
「はい、どーぞ」
「ありがとうございます」
「っ、すみません」
銅製のマグカップに淹れられたアイス珈琲を
いや、
それを口にする俺をカズが不思議そうに眺めてる
「珈琲、飲めるんだ…」
「…あの頃と一緒にするなよ」
そう、あの頃と。
カズの記憶の中の僕は、14歳と半年で止まったままなんだ