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愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】

第4章 落花流水


和也said


松本家での晩餐会の後、俺は週に一日与えられる休暇を利用して町へ出た。


本音を言えば、あの広い屋敷のどこかで、一人膝を抱えているだろう智さんの傍にいたかった。

どれだけ強がっていたって、実際の…俺の知っている智さんは、とても寂しがり屋で、それに何より弱い人だから・・。


でも俺は智さんを屋敷に・・あの男の元に残して、屋敷を出た。


理由は簡単だ・・あの人に会うため。


別にあの人に貸したハンカチが惜しいわけじゃない。

なんならハンカチの一枚くらい、くれてやってもいい。


なのに俺は、ハンカチを取り返しに行くだけだ・・

そんな言い訳を自分にしながら、あの人の・・相葉雅紀の屋敷へと向かっている。


気になって仕方なかったんだ。


あの時見せた、あの人の綺麗な涙が・・

もう二度とは自分の手元に戻って来ないであろう、愛する人を想って静かに流した涙が、まるで真珠の粒のようにきらきらと光って見えて・・

忘れようとしても、忘れられなかった。

この感情がなんなのか・・

確かめたかった・・・・のかもしれない。




俺は一つ深呼吸をしてから、松本の屋敷よりは数段劣る門扉を開いた。


不思議な気分だった。

今まで裏口から、身を潜めては、忍び込んでいたのに、それが正面から・・なんて、可笑しくて笑いさえ込み上げてくる。


門から玄関へと続く、飛び石を一つ一つ、今にも鼻緒の切れそうな下駄履きで踏むと、カツカツと小気味のいい音が、静かな日本庭園に響いた。


すると、使用人・・だろうか?

庭の至る所に散った落葉を、竹箒(たけぼうき)片手に掃き集めていた男が、こちらに向かって頭を一つ下げた。


「あの、何か御用で?」


爪先から頭の先まで、舐める様に見ながら、訝しげに声をかけて来る。

それもそうだ。

俺の身形と言ったら・・

所々糸の解れた絣の着物に、薄汚れた袴姿。

ともすれば、物乞いにだって間違われそうな、そんな恰好なのだから・・

とても伯爵様のお屋敷に出入りするようには見えないだろうな・・。
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