愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第13章 雲外蒼天
翔side
和也は、おれが直ぐにでも智のところに行けるって思ってたみたいだったし、本音を言えばそうしたかったけれど、それが許されないってことは、おれが一番解っていた。
突然、当主を亡くした家も会社も混乱を極めて、対外的なことの全てが兄さんの肩に掛かってしまい、おれは澤っていう要を失くした使用人たちを纏めたり、内向きのことに時間の殆どを費やす日々が続いた。
それこそ…
父親の死を悲しむ暇も無いほどだった。
そうして、ひと月ほどが過ぎた頃、一通の封書が手元に届いた。
差出人は雅紀さんで、和紙の便箋には悲しみを労う言葉と、智の様子が綴られていて。
彼はあの離れに身を寄せていて、最近は少しずつだけど、昔のように絵筆を持つようになったと書いてあった。
「絵を…描くのが、好きなんだ…」
静かな離れの部屋で、一人…絵筆を持つ智の姿を思い浮かべると、彼に会いたいって思いが胸を締め付ける。
しんしんと降り積もる雪の中
智は何を思い、どんな絵を描くんだろう
おれは鉛色の空を仰ぎ、一人過ごす彼のことを想った。
寂しがりな智が泣いてやしないか…
いつまでもおれが会いに来ないって、心細くなってやしないか。
会えない人の心中を思うと、直ぐにでも行って、抱き締めてやりたいと思う。
もう少しだけ待ってて欲しいって…
柔らかな唇に何度だって約束してやりたいと思う。
でもまだそれをしていい時期(とき)じゃないし、今のおれには智を受け止めるだけの力は無い。
子供のままのおれじゃ、智を幸せになんかできない。
「智…もう少しの辛抱だから…、必ず迎えに行くからね」
おれは冷たい硝子越しに、凍える空へと約束の言葉を囁いた。