愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第6章 籠鳥恋雲
「そうだ、お前に褒美をやらねばな‥」
身形を整えることなく立ち去ろうとした潤が踵を返し、弛緩した身体を床に投げ出す僕の前に跪く。
「これが何だか分かるか?」
胸の懐から取り出した小さな鍵が、薄れて行く僕の視界で揺れる。
ああ、これがあの音の正体だったのか‥
「口を開く気力もないか‥。これはお前の足に嵌められた鎖を解くための鍵だ」
「それ‥を‥‥どうしろ‥と‥?」
「言ったろう、褒美だと。お前にくれてやるから、好きに使えばいい。但し‥」
ことりと鍵を床に置き、潤が立ち上がる。
そして、床に散らかった僕の着物を拾い上げると、それを僕の身体にかけた。
今まで見せたことのない、穏やかな顔をして‥
「ここから逃げ出そうとはするな。俺は雅紀のようにお前を籠から出してやるつもりはない。お前は俺の物だ。それを忘れるな」
それだけを言い付けると、潤は薄い木戸を開けて部屋を出て行った。
僕は床に置かれだ鍵に手を伸ばし、手中に収めた。
一体何のつもりだ‥
僕にこんな物を渡して‥
僕が本当にここから出て行かないと信じているのだろうか‥
だとしたら、あの男も相当な馬鹿だ。
後悔するのは自分なのに‥
それとも僕を試しているのか?
まあ、どちらでもいいさ。
あの男が僕の手の中に堕ちたことは確かだ。
この僕の身体に残された残骸‥
これが証拠だ。
僕にこの鍵を渡したことを後悔すればいい。
僕は手の中の小さな鍵を強く握り締め、天窓から覗く月を見上げた。
あの子に会いたい‥
翔くん‥、君に会いたい‥
翔くんはこんな僕を見たらどう思うんだろう‥
穢らわしいと思うんだろうか‥
身も心も闇の色に染めた僕を、翔くんは‥
僕は月に翔くんの面影を重ねながら、そっと瞼を閉じた。