愛慾の鎖ーInvisible chainー【気象系BL】
第5章 一栄一辱
「私のことなどいいのだ‥君が寒さで悴(かじか)んでいるほうが心配なのだよ。ずっと気にしていたのに、顔を見せてくれなかったから‥気が気じゃなかったというのに。」
「そんな‥私のことなんかを気にしてもらえるなんて」
彼は小さな声でそう言うと、顔を伏せてしまった。
その何とも愛らしい仕草に心を解された私は、もう少し早く身体が温まる方法はないかと思いを巡らせ‥
「ここに座りなさい。さ‥早く。」
身体をずらし自分の隣を空けて、彼の手を引いた。
すると今度こそ驚いた二宮君は首を横に振って、身体ごと後ろに下がろうとする。
「それは流石に駄目です‥お身体に障りますから。」
「構わない。久しぶりに顔を見ることができたのだ。私の願いを聞いてはくれまいか。」
自分を慮ってくれる心根の優しいひとの手を離したくはなかった。
口実は何でもいい‥。
もっと傍に居て欲しいと。
すると彼は諦めたように小さく笑う。
「では‥少しだけというお約束をしていただけるのなら‥」
「ああ、約束しよう。」
少しの間でも構わないのだ‥
私の約束を聞いた彼は立ち上がり、寝台の端に腰を下ろす。
そして羽織の端を持ち上げた私の脇に添うようにして、少しだけ身体を預けた。
「寒くはありませんか‥?」
「そんなことは無い‥君がこうして傍に居てくれるだけで、とても温かだ。」
懐のなかから気遣わしげに向けられる瞳にそう答えると、一向に温もらない手を寝間着の懐深くに入れた。
でももう約束という言葉に抗えないと思っているのか、二宮君は大人しく私の懐の中に手を収めてくれていた。
僅かな衣摺れの音と、置時計の針がこつこつと時間(とき)を刻む音だけが静かな部屋に響く。
すると
「‥旦那様はお優し過ぎます‥」
不意にちりりと子鈴を転がすような声がした。
「私は‥優しくなど無い。いつも我が儘ばかりで、君を困らせてばかりではないか。」
それでも、その我が儘を通してしまいたくなるのは‥君の所為。
君があたたかな微笑み(えみ)を見せてくれるから、それをもっと見ていたいと願ってしまう。
天の上で瞬く星のように瞳を輝かせるから、何度でもその瞳を見てみたいと思ってしまう。
「そんなことは‥このままでは‥‥旦那様の優しさに甘えてしまいたくなります‥。」
私はそう声を震わせる肩を、静かに抱き寄せた。