第9章 【心の声】
「こっ、これは……!!」
「ミス・グレイン、どんな事があっても取り乱さないと言う約束ですよ」
そうだ、約束だ。クリスの杖を握る手がぷるぷると振るえ、手紙は封筒ごと手の中でぐしゃぐしゃになっていたが、マクゴナガル先生は見てみぬふりをしてくれた。見るとクリスの手だけではなく、マクゴナガル先生の帽子のつばも小刻みに揺れている。それを厳格な態度でもって制御しているのだ、ロックハートの奇行に怒り心頭なのはどうやらクリスだけではないらしい。
「分かりましたかミス・グレイン。もう二度とロックハート先生を刺激しないと誓えますか?」
「はい、誓います」
「それなら宜しいでしょう」
そう言って、マクゴナガル先生はクリスを解放してくれた。寮まで帰る途中、クリスは憎きサインの部分をローブで何回もこすってみたが、まったく消える痕跡すらない。
「殺してやる!殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる……」
『そうだ、殺してしまえ』
突然、頭の中にクリスのものではない声が聞こえて、クリスは足を止めた。廊下を見渡しても誰もいない。石造りの冷たい廊下が、どこまでも続いているだけである。
「まさか、な……」
クリスがポツリとつぶやくと、その声は廊下の奥の闇の中へと消えていってしまった。