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ハリー・ポッターと純血の守護者

第7章 【有名人の憂鬱】


 クリスの朝は遅い。
 生まれついての寝起きの悪さに加え、夏休みの間の不規則な生活がさらに拍車をかけている。その眠りは海よりも深く、ちょっとやそっと揺さぶった程度では、深い眠りの底にいるクリスには届きもしない。その内みんな諦めて、彼女を置いて部屋を出て行ってしまう。と、もう残された彼女を邪魔するものは何もない。
 しかし朝食の時間も残り5分と差し迫った頃、クリスは夢遊病患者のごとく、夢うつつのままフラフラと大広間に現れる。意識がないにもかかわらず、毎朝間違いなく大広間にたどり着くので入学当初はハリーもロンも驚いていたが、いつの頃からかこれが当たり前になっていた。
 しかし――今朝はすこし勝手が違った。

【第6話】

「――で、今のはいったい何だったんだ?」

 クリスは頭の中に残った耳鳴りを除こうと、軽く頭を振りながらたずねた。いつにも増してにぎやかな朝の大広間、眉間にしわを寄せているのは寝起きのクリスではなく、向かいに座るロンとそのお隣のハリーだった。

「さっきの聞いてたら分かるだろ?聞くなよ」
「生憎耳には入ったが、頭の処理が追いついていかないんだよ」
「ったく……“吼えメール”だよ。車を盗んだ事がバレて、ママが送ってきたんだ」

 “吼えメール”とは、名前のとおり自分の声を魔法で何倍にも拡声して相手に届ける手紙の事だ。その音量たるや、大広間から離れた廊下にいたクリスの目を覚まさせるほどなのだから察するに余りある。ちなみに1回使用すると手紙は自動的に燃えてしまい、残るのは灰と耳鳴りと苦い思いばかり。今朝のおもな被害者は、少年2人とフクロウ1匹。
 真に可哀想なのはその1匹の方だった。老体にこの仕事はさぞきつかっただろう。クリスがテーブルの上で息も絶え絶えになっているエロールを指でつつくと、か細い声でホゥと鳴いた。

「ああ、それはご愁傷様。で、初“吼えメール”のご感想は?」
「ノーコメント」
「頼むから、これ以上惨めな気分にさせないでよ」

 ついに耐え切れなくなったロンが手のひらで机を叩くと、もう片方の手で頭を抱えた。ハリーも同じように先ほどから眉間にしわを寄せながら、下を向いて親指を回している。彼らにしてみれば2度と触れられたくない話題にもかかわらず、説明までさせられたのではたまったもんじゃない。
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