第30章 【祭りの前に】
暗い闇の中で、まるで水の中にいる様にゆらゆらと体が揺らめいている。そんな中で、クリスはローブを目深にかぶった自分自身を見つめていた。クリスがそっと手を出すと、もう一人の自分も同じ様にそっと手を出して重ね合わせた。
その瞬間、まるで電撃が走ったように、過去の出来事がものすごい速さで順番にフラッシュバックしてきた。そして最後には赤ん坊だった自分に戻ってきた。まだ目も開かない、産まれたばかりの自分だ。
背中には石の冷たい感触が伝わり、耳元では部屋中に反響した自分の泣き声が響いている。そんな中で、急に左手首に焼き鏝を当てられたような痛みと熱が伝わってきた。その痛みに赤ん坊の泣き声は一層強くなり、部屋いっぱいに響いている。それに呼応するように、大人たちの喜びの声が耳をつんざいた。
「祝福を!闇の姫君に永遠の祝福を!!」
「これで精霊達は我らのものだ!忌まわしきマグル達に粛清を!!」
「粛清を!粛清を!!」
「粛清を!粛清を!!」
突如キーンと頭が痛くなって、クリスはベッドから飛び起きた。手にはじっとりと汗をかき、小刻みに震えている。クリスは震えながら、袖をめくって恐る恐る左手首を見た。しかし例の痣は、うっすらとぼやけているだけだった。
「なんだったんだ?今の夢は……」
この痣には、まだまだ自分の知らない謎が隠されている――クリスは直感でそう思った。