第29章 【炎の精霊サラマンダー】
燃え盛るような赤く長い髪に、鍛え上げられた上半身の筋肉。そして赤い鱗が光る大蛇のような下半身。初めて見るサラマンダーの姿に、リドルは驚くかと思ったが、反対に喜んでいるようだった。
「素晴らしい、これが精霊か。欲しい、実に欲しいぞ!」
「なら、遠慮なくくれてやる!!」
クリスが杖を握りしめると、サラマンダーは手から炎の球を作り出し、リドルに向かって投げつけた。しかしリドルはその炎の球をひらりと避け、代わりに炎の球は柱に激突し、柱の1本が砕け散った。それを見て、リドルはまるで初めておもちゃを見る子供の様に笑っていた。
「おしい、おしい。もうちょっとだったのにね」
「クリス、当てなきゃ意味ないよ!」
「そうは言っても、なかなかコントロールが難しいんだ!」
1年前召喚したウィンディーネは、水の様に流れる力に身を任せていたが、今召喚したサラマンダーは、まるでダンプカーを無理やり運転しているような重い感じがする。苦戦するクリスを目の前に、リドルは目を月の様に細めた。
「そっちが奥の手を出してくれたんだから、こっちも相応の出迎えをしなきゃね」
そう言って、リドルは部屋の奥にあるスリザリンの像に向かって歩き始めた。そして像の前で止まると、パーセルタングでこう言った。
『ホグワーツの中でもっとも偉大なるスリザリンよ、我に力を与えたまえ』
すると、スリザリンの像の口の部分が開き、何かがうごめく音がした。『それ』がなんだか予想のついたクリスは、目をぎりぎりまで細めた。絶対に視線を合わせてはいけない。しかし目を開けていなければ『それ』を倒すこともできない。窮地に陥ったクリスは、一旦壁際まで後退し、少しでも作戦を練る時間を稼ぐことにした。
その時、ハリーの肩から不死鳥が飛び去って行くのがかすかに見えた。もしあの鳥が少しでもバジリスクの注意を引いてくれるなら、その間に火の玉を当てることは可能だ。リドルの体と違って、的が大きい分当たりやすいはずだ。クリスはもう、これに賭けるしかなかった。
「行け、フォークス!あいつの気をそらすんだ!!」
クリス自身でも無茶な作戦だと思っているが、今はこれくらいしか浮かばない。フォークスが巨大な鎌首の周りを飛び回り気をそらしてくれている間に、クリスはまた杖を構えた。