第27章 【握りしめた手】
誰もが絶望に暮れ、緊張の走る職員室に、突然場違いなほど満面の笑みを浮かべた愚か者が入ってきた。他の誰でもない、ギルデロイ・ロックハートだ。
「やあ、これは皆さんおそろいで。すみません、ちょっとファンレターの返事を書くのに丁度良い区切りが無くて」
その場にいた職員全員が、まるで親の仇でも見るような目つきでロックハートを見つめている。中でもひと際鋭い視線を送っていたスネイプだったが、何を思ったのか皮肉めいた笑みを見せつつロックハートの肩を叩いた。
「丁度良い適任者だ、ロックハート。女子生徒が怪物に拉致され、『秘密の部屋』に連れ去られた。いよいよ貴方の出番が来たようだ」
それを聞いて、ロックハートはハトが豆でっぽうでもくらったかの様な表情を見せた。そしてそれに乗っかるようにして、次々と先生方が口を開いた。
「そう言えば昨日でしたわよね、『秘密の部屋』の入り口が分かったと仰っていたのは」
「え?……私は、その……」
「そうでした、わしにも仰ってましたね。『秘密の部屋』に何がいるのか知っていると」
「は、ははは……私が、そそそそんな事言いましたかね?」
「吾輩はしっかり覚えておりますぞ。ハグリッドが捕まる前に、怪物をやっつけるチャンスを逃してしまったのが悔しいと言っていたのを」
「そうそう、私もこの耳でしっかり聞きました。初めから自分の思いどおりにやらせてくれれば、こんなに被害者は出なかったと」
「私は……そんな……皆様の誤解では――」
だんだんと尻すぼみになっていくロックハートの言葉が言い終わる前に、マクゴナガル先生が凛とした声で締めくくった。
「それではギルデロイ、あなたにお任せしましょう。どうぞ、全てお好きなように」
ロックハートは辺りを見回して、誰も助け船を出してくれないと分かると、ぎこちない笑顔を浮かべた。
「わ、わかりました。それでは……私は支度をしに、ももも戻ります」
壊れたロボットのようにぎくしゃくしながらロックハートが職員室を出て行くと、マクゴナガル先生が大きくため息をついて仕切り直した。
「これで厄介払いが出来ました。寮監の先生方は寮に戻り生徒たちに何があったのかを伝えて下さい。他の先生方は生徒が一人でも寮の外に出ていないか見回りをして下さい。明日一番で生徒たちをホグワーツ特急で帰宅させます」