第25章 【蜘蛛の王】
春の日差しはどんどんと強くなり、ようやく夏が近づいてきた。だと言うのに、ダンブルドアが学校からいなくなったと言うだけで、城の空気は一変、まるで昼でも夜中のように静かだった。教室の移動にはもちろん引率の先生が付き、皆下を向いたまま喋ろうともしない。恐怖の顔色もあいまって、まるで死人が列を作って歩いているようだった。
ダンブルドアとハグリッドがいなくなったこともショックだったが、ハーマイオニーのお見舞いが出来なくなってしまったこともショックだった。マダム・ポンフリーは扉を1cmだけ開きながら「せっかくですが、患者の息の根を止めにまた現れる確率もあります」と言って、鼻先でピシャリと扉を閉められた。
唯一の楽しみと言えば、透明マントを被って、授業が終わった夕方に、ファングに会いに行くことだった。1日に1回しか餌をあげられないから、お腹を空かせたファングは餌をやると勢いよくかぶりついた。
「よしよし、お前は良い子だね」
そう言って頭をなでてやると、ファングが大きな舌でべろべろ顔を舐めまわした。ファングも、今はクリス達が餌をくれる人たちだと判別しているらしい。その所為か、前よりちょっとファングとの距離が短くなった気がする。
「お前のご主人様も今は頑張ってるから、お前も頑張ろうね」
「ねえ、その……ハグリッドが連れて行かれた牢屋って、どんな所なの?」
「魔法界で最悪も最悪。生きて出られた人はいないって言う死の監獄さ。僕も話でしか聞いたことないけど、ディメンターって奴が看守をやっていて、人の生気を吸い取るっていう話さ」
ファングの頭をなでながら話していたロンが、今度はファングにべろべろに舐めまわされていた。
「そっか……ハグリッドは今そんなところにいるんだ……」
「ハグリッドは居場所が分かるから良いけど、問題はダンブルドアだよ、一体どこにいるんだろう」
「ダンブルドアの家、なんて聞いたことないしな」
「ここはやっぱり、クモを追いかけるしかないよ!」
「だからハリー、何度も話し合っただろう。そのクモが、いったいどこにいるんだよ?」
「それに、昼は先生達の目があって、行動範囲が制限されているしな」
話し合いながら、3人の周りの空気がズーンと重くなった。最近はこんなやり取りの繰り返しだ。