第9章 Not everlasting /ky
『海、見に行こ?』
午後10時の思い付きに付き合ってくれる人は
一人しかいない
最終電車に揺られて海を目指す
電車を降りると日付は変わっていて
辺りは人通りも少なく、街灯が淋しく夜を照らす
「うおー!さっみ…!」
海風に吹かれ、思わぬ寒さに肩をすぼめ、ポケットに手を突っ込むキヨは、薄い上着を羽織ってるだけ
「てかさ、キヨ、薄着過ぎじゃない?」
「いやだってさ、家出た時ちょうど良かったし!」
相変わらずだなぁなんて思いながら、並んで歩く
「あぁー!寒すぎる!!
あ、あったかいやつ!」
と先に見える自販機に縋るように走って行く
私も!とキヨを追いかける
500円玉を投入口に入れて、先に押すように促される
温かい甘めのカフェオレと
いつものお茶
「お、さすが、つばさ!
俺のこと何でもわかってんね。」
キヨは受け取ったお釣りを仕舞うと、温かいお茶を頰に充てる
「何年一緒にいると思ってんの?」
「ふっ、そうだな。」
自慢気に言うと、キヨは伏し目がちに笑った
駅から歩いて10分程で海岸まで着いた
ここもキヨとよく来た
夜中に来たのは初めてだけど
砂浜の浅いところを歩いていると声が聞こえてくる
カップルのようだった
「あ、チューしてる!」
「バカ、聞こえちゃうよ。」
「聞こえた方が興奮するんじゃね?」
むしろ聞こえるようにしてるんじゃないかと思うほど大きな声
「俺たちもしちゃう?」
「ほんとバカ。」
「いいじゃん、一回くらい。」
キヨは笑って言っていたけど、冗談には聞こえなかった
物憂げな瞳の色がそう感じさせた
キヨとの二年は越えそうで越えられない線をギリギリに歩いてきた
だから限界なんだと思う
キヨも私も