第4章 ナイスな心意気 A×N
「鏡よ、鏡。この世で一番可愛いのはだ〜あ〜れ?」
洗面所にいるその声の主が鏡にそう問いかけて、俺においでおいでをする。
あーあ、また始まったよ…あの人の朝の日課が。
「はいはい、何ですか?」
俺は渋々その人の元へ行く。
呆れつつもそこに行ってしまうのは…俺を呼ぶその人のことが大好きだからだ。
惚れた弱味…かな。
「もう、カズくんってば素直じゃないんだから。どうせ来てくれるならさ、もっと嬉しそうにしてよ〜」
「はいはい。あ〜嬉しいな〜っ!…これでいいですか?まーくん」
「うん、いい、いい!そんなに楽しみならさ、早く鏡さんに聞いてみようよ」
「は?」
「ほら、カズくんも一緒に言ってよ。せーの」
『鏡よ、鏡。この世で一番可愛いのはだ〜あ〜れ?』
耳に手をあてて、ウンウンと頷くまーくん。
そして
「それは〜カズくんだよ」
唇をすぼめてなるべく開かないようにして、声色を変えてそう言うんだ。
ぷっ…
何回見ても、毎日見ててもその姿には吹き出してしまうんだけど。
「すご〜い!世界で一番可愛いのはカズくんだって!もう何連覇中だかわからないね」
まーくん…
あなたのほうが、よっぽど可愛いと思いますよ?
天の邪鬼でひねくれものの俺は、あなたに…まーくんにどれだけ救われてるか。
この朝の日課、実は俺は大好きなんですよ?
口に出しては言いませんけどね。
まーくんなら、きっと気づいてくれてると思うから。
END