第16章 with you
「宗介さん、私今日イワトビックリパン7個食べられたんですよ!すごくないですか?・・・うーん、でも渚先輩は8個が最高記録だって言ってたから、私ももっと頑張らないと!」
「・・・・・・そうか」
・・・またそうだ。今私達は、毎度おなじみのタコの公園のベンチに座って話をしている。だけど、今日の宗介さんは何かおかしい。私が話しても、『ああ』とか『そうか』ぐらいしか言ってくれない。
普段も宗介さんはあまり口数が多いほうじゃないけど、今日は絶対に変だ。今の話題だって、いつもだったら『お前、さすがに食い過ぎだろ。腹壊すなよ』って呆れながらも笑って言ってくれるのに。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
私が黙ってしまうと、宗介さんはもう一言も話さなくなる。
少し俯き加減で、心はここじゃないどこか別のところに向けられてるような・・・そんな気がする。
・・・よし。うだうだ気にしてたってどうにもならないから、ちゃんと宗介さんに聞いてみよう。
「あの・・・宗介さん」
「・・・ん?」
「えっと・・・何かありましたか?」
「は?」
「今日、ずっと話しかけても『ああ』と『そうか』ぐらいしか言わないし・・・宗介さん、上の空って言うか・・・何かあったんですよね?」
「・・・あー、ちょっと考え事してた・・・悪かったな、お前と一緒にいるのに」
宗介さんはとても申し訳無さそうな顔をして、私に謝ってくれた。
「そ、そんな!謝らないで下さい!・・・えっと、でも、考え事って?」
別に責めようとした訳じゃなくって、ただ心配だったから聞いたのに、宗介さんにそんな顔をさせてしまって慌ててしまう。
でも・・・考え事って一体何だろう?
「あー・・・いや・・・今日、進路相談があったんだ・・・それで、な・・・」
宗介さんが絞り出すように言った言葉に、ハッとした。同時に、軽はずみに聞いてしまったことをとても後悔した。
宗介さんは3年生。来年でもう卒業だ。
確か卒業後は、お父さんの手伝いでもするかな、と前に曖昧に言っていたのを思い出す。
宗介さんはもう夢は叶った、水泳はやめるって言ってた。でもやっぱり子供の頃からの夢だし、ずっと打ち込んできたものだし、当然迷いだってあるのかもしれない。