第2章 真実と現実
ここへ来て直ぐ、信長は2人を戦場へと連れ立ったり、蜜姫を呼びつけ伽をさせようとしたり、
更には、囲碁で賭け事まで始める始末。
そしてそれとは別にこの日の夜はなつを天守に呼び出していた。
「信長。」
「来たか、入れ。」
そのやり取りで、なつは天守の襖を開け、膝を折りもせず信長がいる隣に腰を下ろす。
流れるような仕草で徳利を持ち、既に空になっていた杯へ酒を注ぐ。
「クク、蜜姫とは全く違う。」
「碁で賭け事をしてると聞いたが?」
信長の言葉には笑みだけ返し、先ほど耳にしたことを問う。
「貴様もするか?」
ニヤリと笑う信長になつは笑みを深めた。
「貴方が私に左程そう言う興を引かれていないことぐらい分かる。そんな相手に躰を許すほど、私は軽くない。」
「貴様が望むのなら夜伽を命じても良いのだが?」
「断る。だが、碁の相手ならば暇つぶしに付き合ってやる。」
「ほう?ならば、彼奴同様掛けるか?」
「遊びだ。賭け事をするならやらん。」
「フン、まあいい。ならば暇つぶしに付き合え。」
そう言うと、信長は碁盤を用意する。
それを見たなつは席を移動し、信長の前に座りなおした。
暫くは、無駄な会話もなく打ち合いが続いたが対局も終盤に差し掛かった時、なつが口を開いた。
「相変わらず、秀吉や光秀辺りが私のことを疑っているようだな。」
「フン、彼奴らは用心深すぎるんだ。」
そう言う信長も決してなつに対して警戒心を解いたわけではなかった。
それは、なつの言動やその肝の据わった精神にあった。
「一つ、頼みがある。」
この切り出しに、流石の信長も驚愕するのだった。