第1章 穢れた○○
私は持ち手が金色のチェーンの小さいショルダーバッグを肩にかけて自分の部屋の扉を開ける。
足になにかあたる感覚がし、下を向くと緑色の酒のボトルが転がっていた。注ぎ口からはきついアルコールの匂いがする。
母がいるリビングを覗くと父の姿は見当たらず、ポツンと置かれた唯一の家具のテーブルとイスに母が座り、頭を抱えて泣いていた。
何日も放ったらかしにされたキッチンからは腐るような匂いが立ち込め、ハエがたかっていた。
常備している防虫剤でハエを殺して、キッチンを片付ける。
と言っても母はなにも食べていない。
痩せこけた頰に骨に皮を貼り付けただけのような風貌になってしまった母を横目に見やり、私はキッチンの片付けを終えた。
「ちょっと行ってくる」
私は赤いパンプスを履いて母の方を見る。しかし「行ってらっしゃい」なんていう暖かい返事は返ってくるわけもなく、ただすすり泣く声だけが返ってきた。