第1章 Look at the skies
「じゃ、俺…仕事行くから。お前まだいるだろ?」
出勤準備してる俺に合わせて、起きて来たヤツに
まるで恋人同士みたいなセリフを口にする
明らかに不自然なセリフに、ヤツの顔色が曇った
行きずりの相手に、
そんな事を言ってしまったのは
深い仲になりたいとか、そんなわけじゃない
浅はかな行動を取った自分を、言わば守る為で
コレをネタに、後から金を要求されても困るし
金で解決出来るなら未だしも、
脅されでもして周りに知られたりしたら、それはそれで面倒だ
昨夜の過ちを誰にも公言しないように
ある程度監視しなければならないと、シャワーを浴びながら考えていた
安全だと、確信してから……
あまりにも知らないだけに
今さら、ヤツに対して警戒心が沸き上がって…
その反面、親に対する裏切りが、俺の中で密かな優越感を生み出していて……
自分の事なのに、
正直、よくわからない感情が入り交じっていた
「いいの?
じゃ、もうちょっと寝てようかな…」
「なんなら、帰って来んの待ってる?メシ行こうぜ」
「…しょーちゃんが、いいんならいいよ?」
「じゃ、決まりな。
出来るだけ早く帰るから」
俺が好意を持ってると、ヤツの意識に植え付ける
計算高い男なら、
簡単に堕ちた俺を、まだ利用しようとするだろうし
バカな男なら、
しばらく泊めてやったら、追い出せばいいし
とにかく、今ここで別れれば
俺は、この一夜の為に
余計な心配をしながら毎日を過ごさなければならない
一応、貴重品は見つからないようにしておいたし
まぁその点は
メシ作って待ってた日で実証されてるから、大丈夫だとは思うけど
って、今さら後悔してんのが、情けなくもあるけどね。仕方無い
「じゃーね。
しょーちゃん頑張ってね」
眠そうな目を擦りながら
もうちょっと寝てようかな、なんて言ってた癖に
玄関まで見送って来てさ
「ああ。行ってくるわ」
イヤイヤ…
凶悪な犯罪を犯すヤツに限って、
まさかあの人が、ってヤツだったりするんだ
見た目だけじゃ、判断出来ない
留守番させるなんて
かなりリスクもあるけどね
ソッチが俺を信用するには、いいカードだろ
ドアを閉めると
鍵を掛け、会社に向かった