第1章 Look at the skies
コーヒーメーカーのスイッチを入れ、
シンとしたままの部屋を後目に
バスルームに向かう
濡れた頭にタオルを被って、
新聞片手にリビングに戻って来た時にも、
コーヒーの香ばしい匂いがたちこめるだけで、
リビングは他に変わりなかった
他人のウチに泊まってんだ
そろそろ、起きてくるよなぁ?
カップに注いだコーヒーを一口含み、
新聞越しに、動かないドアを見つめた
や、アイツなら
人んちだろーが、なんだろーが、気にしないに決まってる
出勤時間まで20分を切った頃、
ノックし声を掛けた
だけど、反応はないままで……
部屋に入り、
丸まった身体を布団の上から揺さぶった
「ん……ぅ…ん……」
微かに声は漏れるものの、目蓋は固く閉じられたままだ
「なぁっ……、
オイッ!起きろって!!」
痺れを切らし、揺さ振る手を強めながら声を上げる
無理矢理、布団を引き剥がしてはみたけれど
身体を捻らすだけで、
起きる気配は全くない
……それどころか、
余程、いい夢見てんのか
覗いた顔は幸せそうに緩んで、
ムニャムニャと何かを呟いてる
引き剥がした布団を離し
ベッドの傍らに腰を下ろすと
自然とため息が漏れた
「仕方ねぇなぁ……」
昨日あったばかりの他人
知ってんのは、
名前と家がないって事くらい
なのに、何故か
普通なら当たり前の不信感も、危機感も沸き上がらなかった
妙な感覚
いい加減でワケわかんねぇヤツだけど
不思議と、
大丈夫だろうなって、
本能的に感じてた
無銭飲食はするし
簡単にヤろうとしたのに……だよ?
……何でだ?俺
自分で自分が不思議だったよ