<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第238章 堕とす作戦 ―元就&姫 ―
「どこ行くんだ、おひいさん?」
目に留まったのは、織田信長が寵愛しているという姫君。
普通の小袖を着ているものの、見た目は他のおんなと比べると突出して美しい。
あのおんなを攫えば信長がさぞ慌てて探すだろう。
しかしすぐその考えは頭を振り払って捨てる。
おんなを巻き込むのは俺の主義に反するだけだが、それでも俺はあのおんなに近付いて話し掛けた。
「…あ…えっと…モトナリさん、でしたよね?」
名前しか教えていないから、俺が毛利元就とはわかっていないようだ。
「あぁ、よく覚えていたな、俺の名前を」
俺が笑ってやると、おひいさんも穏やかな微笑みを返す。
「勿論です。だってモトナリさんには助けてもらったんですから…」
そう、本当はおひいさんを攫う予定だったが、結局、雇った者たちにおひいさんを襲わせて俺が助ける、という手段に変えたため、おひいさんにとって俺は恩人という訳だ。
「今日は何の用なんだ?」
自然と並んで歩くようになり、俺が城下に何で来たのか尋ねると、おひいさんは素直に答えてくれる。
「反物を見に行くんです。これでも私、お針子として仕事をしているんですよ?」
「へぇ、針子か。着物を縫う仕事をしているのか、たいしたものだな」