<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第104章 ツツジ ― 信玄&姫 ―
「そうですね…ツツジの寿命はわかりませんけれど、今、こうして私達が見ているこのツツジが、500年後のこの地に住まう人達の目に触れていたら素敵ですね」
「それを言ったら、きみが現代で、この花をここで見ていたのかも知れないな」
俺が舞の顔を覗き込んで言うと、舞は俺を見て、目をしばたたかせた。
「信玄様、それ、有るかも知れませんね。もしかしたら、本当にそうかもしれませんね」
「そうか、そうかもしれないか」
舞の破顔に俺も釣られて笑ってしまった。
遠い未来で、未来の舞が、今、俺の見ているツツジを、同じ場所に立って見ているかもしれない。
そう思ったら俺の立つ地面が揺らいで、未来の姿の舞が同じ場所に立ち、同じ視線で花を見る姿が一瞬浮かび上がってきた。
へぇ、未来の舞はそんな恰好をしているのかい?
今と同じ表情で花を見る舞がこちらを見て微笑む。
その微笑みは誰に向けたものなのか?
俺はその笑顔の先にいる誰かに、嫉妬を覚える。
「舞」
俺は舞の名を呼び、首を傾げながら俺の側に戻ってきた舞の腰に俺の腕を巻き付けて抱き、その場で何度も口付ける。
未来の舞と今の舞が重なり、舞は俺だけの舞になる。
ツツジの見せる夢は未来のきみを見せてくれたけれど、俺には嫉妬も見せてくれ、それを振り払うように俺はツツジの群生の中で、舞の全てを俺一人のものにする。
<終>