<イケメン戦国ショートストーリー集>戦国の見える蒼穹
第97章 哀しみのりんご ― 姫&三成 ―
三成くんの切ない声が私の耳に流れ込む。
-ねぇ、三成くん、もしかして私の事を好いてくれている?
-でも、ごめん、私は家康を愛しているから、三成くんの気持ちには答えられないよ…
私は三成くんに止めてと頼む。
「三成くん、お願い、止めて…私は三成くんの気持ちに答えられない…」
私の言葉に三成くんははっとし、唇を離して、私の顔をじっと見つめた。
「ごめん、私は家康を愛してる。だから家康にずっと付いていくって決めたの」
三成くんの瞳が揺れ、ちからを無くしたように、私の両手を離した。
「…わかりました。申し訳ありません、舞様、大変不躾な事を致しました」
三成くんがうなだれて私に謝罪する。
-人を愛する事で、他の人を傷つけていたなんて、自分では思っていなかった。
三成くんはそのまま御殿を去って行ったけれど、振り向いて私を見る事はしなかった。
私はずるりとその場にしゃがみ、三成くんへの贖罪に涙を流す。
すぐ側にワサビがひょっこりと顔を出し、三成くんが置いていったりんごに気が付き、しゃくしゃくと食べ始めた。
「…ふふ、ワサビ、美味しい?」
私は涙を拭きながら、ワサビにりんごの味を聞いてみる。
きっとそのりんごは、今なら悲しみを含んだ、甘くて酸っぱい味がするんだろうね。
周囲を傷つけずに人を愛する事って出来ないのかな…私は、思った…
<終>