第22章 『衝動』
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一方、蓮はというと………
「ほらっ、おいでおいで!」
部屋の隅に立ち
パンパン、と両手を叩いて合図をすれば、
可愛らしく鳴く照月が遠くからやって来る。
自分の足元にそいつが辿り着く寸前に走り出した私は、部屋の四隅の一角へ逃げ込み……
また手を叩いては、こっちへおいでと誘った。
すると反応した照月もすぐ追いかけてきて………その姿に、自然と頬が綻んでしまう。
ーーーあれから………
あの二人が部屋を去ったあと、
耐え忍んでいた我慢が爆発して真っ先に照月のところへ向かった私は
時が経つのも忘れる程こいつとの遊びに夢中になっていた。
虎と触れ合えるなんてそうそう無いし、
なによりも………
可愛過ぎだろ、こいつ!!
「あ〜あ、捕まっちゃったかぁ」
わざと足の速度を緩めれば、
チャンスを逃すまいとすかさず飛び掛かった照月が着物の裾をぐいぐいと引っ張ってくる。
捕まった振りをするという滑稽な芝居も、他人の目が無いから為せる業。
畳に腰を下ろし、せがむ照月を自分の胸元に抱き寄せる。
「ふわふわ………」
手の平から柔らかい毛の感触が伝わってきて心地良い。鼓動とぬくもりが、生命の尊さを訴えている。
ーーー動物は好きだ。
腐敗しきった一部の人間とは違い、
健気で素直に生きてるから。
じー……とこちらを見つめるその瞳は純粋で、一片の曇りも無い。
ああ……
この殺人的な可愛さといったら。
伸ばしてくる前足の裏にはぷにぷにの肉球。
口元から顎にかけてのフォルム。
鳴く際の顔つき。
「ネコ科、最高!!」
ぎゅうう、と思い切り抱き締めて
歓喜の雄叫びをあげていた…………時。
耳に届いた、忍び寄る微かな足音ーーー
どうやら二人が戻ってきたようだ。
姉貴はいいとして、あの男に見られる訳にはいかない。
ちっ、これまでか………。