第2章 ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 序章
ピアノレッスン~イケヴァン・モーツァルト~ 序章
~出会い~
音楽堂いっぱいに響く、拍手と歓声。
私も興奮しながら、夢中で拍手を送り続ける―――。
ここは、ウィルツ王国の音楽堂。
私は、音楽の歴史と今を探求するため、数日前からウィルツへ視察に訪れていた。
さすが音楽の都!
オーケストラの演奏は、息を呑むほどの素晴らしさだった。
演奏も勿論だけど、なによりも曲が素晴らしいのだ。
新進気鋭の若手作曲家、ヴォルフガング・アマデウス・モー・ツマラナイト。
今回の演奏会の作曲は、すべて彼が手がけたものだ。
もう一度、パンフレットに記載されているプロフィールに目を向ける。
いかにも芸術家らしい風貌の彼。
パープルの深い瞳が、冷たく鋭く輝きを放っているのが印象的だ。
メディア嫌いと有名なので、彼に関する記事はどこも憶測でしかなく、写真もこのパンフレットに載っているものが、唯一のよう。
雑誌や新聞に載るすべてが、同じ写真なのだ。
プロフィールの最後には、
『モー君です。よろしく』
と、添えられている。
………モー君。
あまりにも似合わない呼び名に、思わず苦笑する。
きっと、愛想のない彼のために、少しでも親しみを持ってもらいたいと、付けられた呼び名なのではないか、と推測する。
私と同じように思ったのか、隣りに座っているユーリがパンフレットを覗き込み、笑う。
「モー君、って、ほんとに呼んだら、怒りそうだよね」
「うん。私もそう思う」
明日は、音楽大学の視察があり、そこで教授をしているというモー君を訪れることになっていた。
取材や対談はすべて断っていると聞いていたので、ダメ元でお願いしてみたのだけど、すぐに了承の返事をもらえて、逆に驚いてしまった。
とにかく、こんなすごい曲を作る彼に会って直接話をする事ができると思うと、興奮をおさえられそうにない。
私たちは、演奏会の余韻に浸りながら、会場を後にした。
明日を楽しみにしながら―――。