第1章 猫を拾った
気づけば陽はもう傾いていて、駅前は買い物する人が増えていく……俺は人ごみを避けるように裏通りへ向かった。
昼間よりさらに薄暗くなった裏通りをいつもの便所サンダルで歩くとペタペタと音が響く。
しばらく歩くと暗闇から猫達の喧嘩する声が聞こえてきた。
心配して覗いてみるとどうやら1匹の猫が多数のノラ猫にやられているようだった。
……猫は群れない……
けれど、テリトリーにはすごく敏感だ。
きっとこの猫がテリトリーを犯したのだろう。
多勢に無勢、1匹の猫はぱたりと動かなくなった。
俺は慌てて仲裁に入る。
「……許してやってよ……もう十分だろ」
そうノラ猫たちに言ってはみてみたが、猫たちの怒りは収まらない。
俺はため息をついた。
本当はしたくない。
仕方なく猫の姿になる。
誰にも秘密だけど、猫になれる俺はノラ猫達を威嚇した。
猫達は不満げに鳴きながら走っていった。
元の姿に戻り、ぐったりしている猫を抱き上げてみたが、傷とドロだらけで反応もない。
俺は着ていたパーカーで猫を包み、元の道を急いで戻った。