第1章 プロローグ
東チカは、路上でスカウトされた期待の星のくせに大した音楽性の無い女だ。
作詞も作曲も、まるで出来ない。
それでもプロデューサーが拾ってきたのは、その『声』があまりにも珍しかったからだ。
一般ウケはしなさそうな、しかし独特の味があるその声は確かに面白かったが俺は好かなかった。
俺は、歌姫が欲しかった。
『顕嵐、お前東に曲を書く気は無いか?』
プロデューサー、改め椎名さんが悪戯な笑みを溢してそう問うたことがある。
意地悪を施すことが好きな椎名さんの性格を理解していたので無視をしていたが、あまりにも挑発的だったので迂闊にも反論してしまった。
『俺は、自分が気に入った人にしか書かないんで』
『つまんねぇな。お前が手掛けた作品は外れなし、これでもお前を見込んで話してるんだぜ?』
『東チカに、魅力を感じないんですよ』
理由なんてそれで充分だった。