第1章 プロローグ
『今、貴方は幸せですか?』
混雑して建ち並ぶ市街地のビルのひとつ、そこに貼り付けられた電光板には女性の姿が映し出されている。
たしかあれは今、若い女性を中心に絶大な人気を誇る女優。
最近、忘れられた天才として知られる天才児・平野紫耀と婚姻したことで話題になり、美男美女と持て囃されている。
華やかすぎない、何処か健気な彼女の姿に憧れの念を抱くのは最早自然の摂理である。
「……ああ、耳障り」
その電光板に繰り返し放送されるCMの、背後に聴こえる歪な声。
周りはそうだと思わないらしいが、長年ここに巣食う俺には堪らなく気持ち悪い音を奏でる楽器。
──東 チカ。
それがその歌を歌う人間の名前だ。