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【YOI男主】僕のスーパーヒーロー【勇利&ユーリ】

第4章 僕のスーパーヒーロー


淡々と言葉を続ける勇利の真剣な横顔を、ユーリは赤く腫らせた目で垣間見る。
「でも、僕がヴィクトルからコーチをして貰っているのは、競技者のヴィクトルを少しずつ殺しているのと同じ事だ。いつまでも『神様』の時間を独占しちゃいけない。だから僕は、最後に最高の演技をして競技選手としての自分にピリオドを打って、ヴィクトルを競技の世界へ返そうと思ったんだ」
「ヴィクトルは…お前にそんな事望んじゃいねぇだろ」
「…うん。後で散々泣いて怒られた。でも、あの時はそうするのが一番だって思ったんだ」
むしろヴィクトルは、勇利の為なら全てを捨てる事も厭わないだろう。
自分にも判る事が何でこいつには判んないんだ、とユーリは内心で呆れていた。
「演技を終えてヴィクトルの口から競技復帰の言葉を聞いた時も、正直僕の心は動かなかった。ちょっと寂しいけど、これでまた『神様』が銀盤の世界に戻って来る…ってね。後は穏やかな気持ちで皆の演技を見届けよう。そのつもりだったけど…そんな僕にリンクから声なき叫びが聞こえた。…『ふざけるな』って」
「え…?」
思わず声を上げたユーリに向き直ると、勇利は真っ直ぐ見つめながら、微笑んだ。
「あの時のユリオの演技が、本音を隠して競技の世界から去ろうとしてた僕の襟首を、『本当にそれで満足なのか?今やめたら一生後悔させてやるぞ』って全力で掴んできたんだ。ヴィクトルは今でも僕にとっての『神様』だけど、あの時のユリオは、半ば全てを諦めていた僕を寸前で競技の世界に引き戻してくれた、僕の『スーパーヒーロー』だったんだよ」

再び堪えきれなくなったユーリの目から、涙が溢れ出す。
ぼやけていく視界の中で、ユーリは昨年末に長谷津で純と過ごした時の事を思い出していた。
本当は知っていた。
勇利は自分の事を生意気な年下の選手としか見ていない、と零していたユーリに、純が「勇利はちゃんと、君を1人のスケーターとして見とるで」と、話を切り出してきたのである。
『この話、僕が言うたんは内緒な。いつか、勇利の口から君に伝わる日が来ると思うから』
いつかそんな日が来たら良いと思う一方で、もしかしたら優しい純のついた方便かも知れない、とも考えていたからだ。
でも、嘘ではなかった。
それが真実である事を当の勇利本人から知ったユーリは、涙を流すしか出来なかった。
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