第23章 初心編
「さてと。」
俺はゆっくり腰をあげる。
あんまり服部に迷惑はかけられない。
「…話はそれだけでしょ?俺、もう帰るから。」
俺がそう言うと、
後ろから、ヒュン、と音がする。
「ーーーーッ、」
思わずしゃがむと、クナイが俺の頭上を飛んだ。
同時に、背後から殺気。
「………、なんの…つもり?」
振り向きざまに刀を抜いて、服部のクナイを防ぐ。
ガキン、と鉄がぶつかり合う音がした。
「…………フッ。」
今の一突、本気だった。
俺が服部を睨むと、服部はにやりと笑った。
「なんで俺がここまで来たか分かってんの?」
まさか…嵌められた、のか?
刀とクナイは相変わらずギリギリと
金属音を鳴らしている。
気を抜いたら、首元を切られかねない。
やはり…服部は俺を殺しに来たようだ。
その事実が、痛いほど感じられた。
俺の中の信頼を上回り、
ガラガラと崩れ去っていく。
友人が目の前で消えていく感覚に、
怒りが込み上げた。
「………お前を信じた俺が馬鹿だった。」
ギロリと改めて服部を睨みつけた。
服部全蔵が相手とは…本気で殺しにかからないと、
こちらが殺られる。
金を積まれた方に服従し、
お互いの技術を試すためだけに刀を持つ忍者の世界。
ただの昔の友だからと言って、
忍者同士の裏切りなんて、よくある事だと
俺はよく知っていた。
人生を懸けて一本筋を通す侍とは違うのだ。
俺がクナイを跳ね返すと、
服部が二三歩距離を取る。
「…………嫌いだ。」
「ん?」
「…忍者なんか…神崎家なんか、
……大嫌いだ。」
目の前の友人、いや、元友人に殺意が湧く。
服部もクナイを俺にもう一度向けた。
………もう、手加減はしない。