第23章 初心編
「初心………ここで、いいのかな。…本当に。」
真選組から逃げ出して数日。
永遠と鳴り響いていた携帯も、
電池が切れて静かになった。
一応若には、電池が切れる直前に
『ごめん』とだけメールを送っておいた。
こんなので許してもらえるか分からないけど
送らないよりはいいだろう。
「…………ここだったかな。」
とんだ田舎に来てしまった。
江戸から遠く、人里離れた山奥。
山の麓には小さな村があるのだろう。
農家の鼻歌が聞こえてくる。
「………中、潰れてなきゃいいけど。」
そんな山奥の洞窟に見合わない、
頑丈な鉄の扉に触れる。
家に帰るのは何年ぶりだろう。
10年…いや、20年振りくらいか。
手で錆を払うと、
1箇所だけ穴を見つける。
ちょうど、刀1本入りそうな穴。
「折れませんように………っ、」
大事な忍者刀を差し込んで、
ゆっくりと回す。
ギギギ、と金属が擦れる嫌な音がしてから、
鍵が外れた。
「……………開いた。」
鉄の扉の内側が開いて、
中から溢れ出る闇が俺を誘う。
「…………。」
一瞬だけ、手が震えた。
忍者だった頃の昔の記憶が蘇る。
これが正しいのかどうかは分からない。
でも。もう来てしまった。
後ろからは数人の気配。
追手は近くにいる。
「行くしかない…か…。」
部屋に入り、
昔ながらの松明を手に取った。
「確か、トラップがいくつかあるはずだ……。」
暗闇で見えにくい感覚の中、
昔の記憶を辿り進んでいく。
「確かここが槍の落とし穴で………」
一寸先は闇、とはこの事だ。
1歩でも踏み外せば、
俺は間違いなく槍に串刺しだ。
近くの壁を伝うと、取っ手があるのが分かった。
多分、ここを伝っていけば良かったはず。
取っ手をつたい、最後は鎖鎌を引っ掛けて
着地してしゃがむ。
自分の上には、槍が空中で2本突き出していた。
「……よし。あと何個か抜ければいけたはず。」
俺は次のトラップがなんだったか思い出しながら、
先に進むのだった。