第23章 初心編
局長室の血の匂いに気付かれる前に局長室を出た。
局長、ごめんなさい。
局長室凄い汚しました。俺の所為です。
心の中で謝って、荷物を纏める。
このままここにいては
俺の流れ弾で真選組に被害が及ぶ。
隊服を脱ぎ捨てて、着流しに着替えた。
「…………チッ。」
複数方向に目線を感じる。
この様子だと本当に業界総出というのも
嘘じゃないらしい。
皆、俺の首を狙ってる。
俺は足袋を履き直す。
今は自分の事しか考えるな。
手の震えも、潜入捜査も、全部忘れろ。
じゃなきゃ、一瞬の隙で殺される。
後方からぎゃーっという悲鳴が聞こえる。
どうやら局長室の死体が見つかったらしい。
「………この混乱に乗じて逃げよう。」
隊士がバタバタと走り回り始める。
俺は外見にあまり特徴がない。
傍から見れば俺と同じような顔の人間が
走り回ることになる。
「…………行くか。」
血塗れた隊服を綺麗に畳んで、床に置いた。
その隣に刀を置く。
その時、皆と交わした思い出がいくつも蘇る。
伊東が攻めてきた時、
厠の相談を受けた時、
隊長に女装が見つかった時、
トッシーと一緒にリングに駆け上がった時…………
どれもこれも、日の目に当たる、
明るい場所での思い出ばかりだ。
アイツの言う通りだ。
どんなに神崎家の記録を消したって、
俺はやっぱり……
陽の当たる世界の住民には…
……『一般人』にはなれないんだ。