第1章 恋の始まり
坂ノ下商店で店番をして一日を終える日々。繋心には申し訳ないけれど、何も刺激の無い日々は安心できるようでいて、心の中では何か不満が募っていく。
「あんた、彼氏でも作りなさいよ!そうすれば毎日が楽しいって」
と友達にも言われるのだが、どうしてだろうそんな気も起こらない。
多分仕事で濡れ衣を着せられて辞めることになったとき、私はやる気というものをどこかにおいてきたような気がする。
実家に帰ってきて、家と坂ノ下商店とを行き来するだけで毎日が過ぎていく。
「あー、誰も来ないなぁ。」
私はそう呟きながら店のカウンターに突っ伏した。
「悪かったな、暇な店で」
繋心がふてくされたような声で私の言葉に返しながら新聞を広げる。
もう夜の7時をとうに過ぎた時間で、早寝早起きのおじいさん達はもう店を訪れない時間帯だ。
はぁぁぁぁー。とため息をついたとき、店の戸がガラガラと開く音がする。
「いらっしゃいませー。」
私は慌てて状態を起こし、顔を笑顔に切り換えて出迎える。
入ってきたのは部活帰りの高校生3人だった。
「すみません、肉まん3つください。」
「はーい。」
私はそのとき、思わずその少年にみいってしまった。
目元に泣きぼくろのある爽やかな男の子。
急に心臓がバクバクとなり始めた。
「…?俺に何かついていますか?」
「いっ、いえ。なんでもないです。」
「3つで540円です」
静まれ、静まれ心臓。
男の子がお金を渡すとき、少し手が触れる。それだけで心臓がギュッとなった。
落ち着け私!相手は高校生だぞ!ときめくな、犯罪になる!
「540円ちょうどお預かりします。まいどありがとうございました。」
3人が去ったあと、私はずるずると座り込んだ。
…随分と頭の中が混乱したな…。
さっきの男の子の顔がいつまでも頭の中から離れなかった。