第10章 近づく距離
人が変わるきっかけは、ほんの些細な事だ。
あの日泥酔したミオを介抱して家まで送って以来、ミオは少しずつ、及川と話すようになった。
元々同じ線の電車に乗っていた彼女。
実は授業の時間割もほとんど同じの様で、今までは、及川に絡まれるのを避けて最後尾の車両に乗っていたらしい。
(俺、どんだけ嫌われてたんだよ・・・)
心の中で傷心を癒しつつ、それについてはミオも深く謝罪し、今では、同じ車両、言うなれば隣の席に座り、他愛のない事を話しながら大学へ向かうのが、新たな日常になっていた・・・
「へぇ、2年の時にバレー部が廃部に、ね。だからわざわざ編入してうちに来たんだ」
「はい。理事長が変わって、経済的に色々あったみたいで・・・」
「そうなんだ、大変だったね。うちの大学はどう?」
「楽しいです、バレー部もみんな良い人ばかりだし」
少しずつわかっていくミオのこと。
甘いものが好き、ホラーとかオカルト系の話は大の苦手、隣で男バレが普通に着替えをしているとドキッとするし心臓に悪いと・・・
今まで素っ気ない態度をとられ、ツンケンしていると思っていたが、ミオは普通の女の子なんだとわかる。
それに意外と表情豊かでからかいやすい、
なんて言うんだろうか、要するに・・・
「構いたくなるんだよね〜、ミオって」
「な、何がですか?」
「言われない?いじられキャラだって」
いつものように隣同士の席に座り、及川は口を開く。
ミオは目を点にして、少し考えた後、
「い、わすれますけど・・・」
と、何故か悔しそうに眉をひそめる。
そんな彼女の態度にぷっと吹き出す及川。
「くくっ、やっぱりね」
「やっぱりって何ですか!」
「だって、面白いもん、ミオ」
顔を真っ赤にして怒るミオ。
その様子を見ながら、まだくすくす笑う及川。
「あ、ミオ、ほっぺたに海苔ついてるよ」
「え、嘘!」
「あ、ホクロだった、ごめーん」
「もー!またからかった!」
お腹を抱えて笑う及川。
彼女、ミオと過ごす時間は、リオと過ごすのとはまた少し違う楽しみがあった。