第9章 姉の顔
「すみません、本当に・・・」
「終点までもう少しあるから、寝てなよ」
そう言って無意識に彼女の頭をぽんぽんと撫でる。
顔を赤くするが、ミオは酔っているのかすぐに目を閉じて、再び眠りについた。
きゅっと、及川の貸した上着を握る姿が愛らしかった・・・
ーーー・・・
それから暫くして、終点、
ミオの地元の駅に到着した。
「ミオ、起きて、降りるよ」
「は・・・い・・・・・・」
まだ気だるそうなミオ。
ふらふらと歩く彼女を見兼ねて、その左腕を優しく掴む。
「あ・・・・・・」
「今日はタクシーで帰るよ、いいね?家はどの辺・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
結局、2人でタクシーに乗り込み、ミオの家の前まで送った。
酔っていても、自分の住所が言えるのは大したものだと思った。
タクシーがミオの家の門扉の前に止まると、のろのろと動くミオを下ろす。
「鍵はある?」
「はい・・・あの・・・」
タクシー代を払おうと財布を取り出すミオをぴしゃりと制する。そして及川はもう一度タクシーへ乗り込み、先ほどの駅へと運転手に呼びかける。
「上着はまた今度でいいから。今日は早く休みなよ」
「あ・・・・・・」
及川の上着に目を落とすミオ。
そんな彼女に、及川は優しく微笑む。
「それじゃ、おやすみ・・・ミオ・・・」
そう言って扉を閉める。
及川を乗せたタクシーが動き出し、夜の闇へ消えていくーーー・・・
その様子を呆然と見つめ、それからミオは熱を帯びた瞳で、及川が掛けてくれていた上着をもう一度見やった。
「徹くん・・・」
その呟きも・・・
初夏の夜空へ吸い込まれていったーーー・・・