第17章 願えるなら私も
そう言ったスタッフの言葉通り、書道を始める利用者さんの字は、とても綺麗だった。
「テーマは何なんですか?」
及川は尋ねると、スタッフは言った。
「あなたの人生を一文字で、よ・・・」
このタイミングで、このテーマとは・・・
及川は運命的な何かを感じずにはいられなかった。
「人生・・・」
テーマを告げられ、頭を悩ませながら筆を滑らせる利用者さん。
及川の何倍も生きている彼らはなんと書くんだろう・・・
それぞれ、波乱万丈、山あり谷ありの人生を一文字で何と表すんだろう・・・
発表会は、明日だと言う。
及川は明日がどこか待ち遠しかった・・・ーーー
次の日、介護実習最終日。
「はい、それでは昨日今日で書いて頂いたお習字を画用紙に貼ってみました。"人生を一文字で"というテーマで皆さんに書いていただきましたので、他の方の作品もお楽しみください」
そう言ってフロアの一角に飾った一文字の習字の数々。
人生というテーマで書かれたそれは・・・
ーーー・・・
「本当に皆、字が上手・・・」
デイサービスの営業時間が終わり、殆どのスタッフは、利用者さんの送迎の為留守にしていた。
施設長の話を聞き、全てのプログラムを終えた及川とミオはスーツに着替えた後、再びフロアを訪れ、人生をテーマにした作品たちを見入った。
「穏」や、「愛」や、「喜」や、「縁」や「絆」・・・
本当に様々なものがあり、各々の人生を物語っていた・・・
「あ、これ・・・俺が一番話していたおじいちゃんが書いたやつだ」
目に止まった作品は、力強い筆で書かれた・・・
「再」という文字。
「先に亡くなった奥さんに・・・生まれ変わったら再会できるようにって」
いなくなってもなお、何度も何度でも想う自分の番(つがい)
天に召されても再び会いたいと願うほど・・・
「愛していたんだろうね、奥さんのこと・・・」
夕日に照らされた及川の横顔は息を呑むほど、綺麗で・・・
消えてしまいそうだった・・・