第17章 願えるなら私も
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スーツを着るのは久しぶりだった。ハンガーに掛かったままだったそれは、四年前に購入したが使う頻度が少なく、まだまだパリッとした新品のようだった。
黒のリュックを背負い、家を出て、いつもの電車に乗った。
向かう場所は、今日は学校ではなかった。
「徹くん!」
待ち合わせた車両に、ミオは座っていた。今日は彼女も、見慣れない、黒いスーツを着ている。
「おはよ、ミオ」
いつものようにミオの隣に腰を下ろし、リュックを足元に置く。
そして先程買った缶コーヒーを開ける。
それをこくこくと飲んでいると、不意に彼女の視線を感じる。
「ん?ミオも飲みたい?」
「あ、いえっ、大丈夫です。その・・・」
ミオは手を振って断り、それからほんのりと頬染める。
「ん?」
「スーツ姿・・・かっこいいなって思って・・・」
「・・・・・・・・・」
ミオの言葉に及川は言葉を失う。
(そんなこと顔赤らめて言うなよ・・・こっちが照れるじゃん)
及川からしてみると、ミオの方こそ目に毒だ。
普段通学はお互いジャージだし、こうして改まったスーツ姿を見ると胸や腰や・・・スタイルの良さが際立つし、新たな彼女の魅力を引き出している。
「ミオも似合ってんじゃん。スーツプレイ的な」
「な、何言ってるんですか徹くん!!」
顔を真っ赤にして及川の胸板をぽかっと叩くミオ。
彼女が及川を"徹くん"と呼び慣れてきた今も、2人の関係は特に変わりない。
学校があれば一緒に登校し、帰りが重なれば一緒に帰り、
休日はほとんど同じ時を過ごしていた。
決して想いを伝えてはいないし、付き合ってはいないが、お互いが、この関係が居心地がいいと思っていた。
そして今日は・・・
「いよいよ今日から介護実習ですね」
中学、高校の教員免許を取得するにあたって必修となる5日間の介護実習が始まる。
この実習は元々3年生の時に行われるものであるが、去年は大学選抜の練習が重なっていたため、及川は4年になって行くことになった。