第15章 願えるなら僕は
「でもそれは、リオに対してだって同じなんだ。俺が死ぬことを引き換えに、リオを早く楽にさせてあげたいって言うのも、本音・・・」
優しいリオは、今までどれだけ人の死を、目の当たりにしてきたんだろう。
どれだけ涙を流しながらその仕事を全うしたんだろう。
彼女の性格からして、楽しんでやっていることは絶対に無い。
そう考えると、胸が痛んだ。
「なんか、及川さんがこんなに考え込んでるの、新鮮です」
いつも陽気な彼が、バレー以外のことでこんなに真剣な顔をしている。
自分の事でもあるが、他の人の事をこんなに考える事ができるのは、シンプルな言葉だけれど凄いと思う。
死ぬ、ということを口にする及川は、決して軽く思って言っている訳では無い。
きっと今、誰よりも死ぬ事を恐れている。
「大切な人が、できたんですね・・・」
リオとミオ、どちらも、及川は大切に思っている。
だから大切な人を、悲しませてしまう運命を背負った彼が・・・
一番辛いはず。
「国見ちゃん、さ・・・頼みがあるんだけど」
ゴト・・・と新しいハイボールのグラスを置いた及川は、今までで一番真面目な顔つきで、国見を見た。
「はい」
きっと、きっと彼は、国見の予想している言葉を言う。
「俺が死んだら・・・ミオのことを支えて欲しい」
俺が今まで見守ると決めたあの子を・・・。
自分の想いに蓋をする筈だったけど・・・
それどころか、もっともっと彼女を好きになっていたなと思う。
大切にしたかった・・・
リオの分までも。
国見は、及川の全てを読み取ったように、頷いた。
「分かりました」
(そんな事言うな、生きろよ、なんて言えない・・・)
生きたいと思っているのは、及川さんだ。
けれど、運命が彼を死に追いやってしまう。
それをわかっていて、
そんな無責任なこと・・・
言えるはずがなかった。
及川は、満足したように、今までで一番、優しく微笑んだ。
「ありがとう、国見ちゃん・・・」