【テニプリ】a short story.【短編集】
第10章 【跡部】Have a blast!
何の変哲も無い、日曜日だ。秋らしい一陣の風がすぅっと吹き抜けて髪を揺らした。まだ木々は赤くなったりはしていないけれど、夏の緑はどんどん色褪せていく。
暑くもなく寒くもない、まさに快適な気候だ。私の心の中以外は、全てが恙無く良い日だ――まるであいつを、祝うかのように。
何の予定も作る気になれなくて、折角の日曜日を一人で過ごしている。今日は10月4日で、跡部の誕生日だった。
毎年テニス部でお祝いするのが常だったけれど、今年は日曜日と被ってしまって。跡部は家で祝いの席があるため、今日は無理。代替の予定はまだ立てられていない。きっとすぐに忍足の誕生日が来るから、跡部の分はそこに纏められてしまうのだろう。
直接祝いたかったな、なんてぼんやり思うのはそこに特別な気持ちがあるからで、薄情な私は相手が忍足なら延期でいいじゃん、なんて軽く言っていたと思う。それでもそんな事は直接言えるわけもなく。飲み込んだはいいものの、モヤモヤのまま残って、もう当日の昼過ぎだ。
祝いの席、とやらにはきっと綺麗な女の子たちも居るんだろうな。跡部の家では何かにつけてパーティが催される。前にがっくんが招待しろよな、なんて軽口を叩いた時、つまらないからやめとけ、と本当に詰まらなさそうな顔で返していたのを思い出す。
じゃあなんで毎回きっちり出るの、と聞いてみたら、自分の将来のためになるからだ、と答えていた。そこまで見越しているのは本当に凄いし、偉い。でも、出来るだけ、せめて誕生日位は楽しく過ごしてくれたらいいな、とも思う。
買いたいものも無いのに街をブラつく。ついついスポーツ用品店が気になるのはマネージャーの性で。いつも使ってるリストバンドがすり減っていたのを最近見つけたから。洗いかえようにもう一枚、色違いで買ってみたりした。
一人でふらり、とカフェに入ってみたら、甘いココアがあったのに何故か紅茶の気分になって。桃の香りがふわり、とただようそれはアイツも気に入るんじゃないか、と茶葉を買ってみたり。
我ながら何をしているのか、と溜息をつく、そしてとどめには――少し早くなった夕暮れが迫る中、気づけば跡部の家の近くに来てしまっていたのも無意識の内なのだ。