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【テニプリ】a short story.【短編集】

第8章 【不二】月が欲しいと泣く子供





余程痛いのだろう、擦れた踵が目に入り、顔を顰めるけれど。昔から強情な千花はそれを口に出さない。家から駅までのことだから、と絆創膏の入ったいつものカバンを持っていない事を後悔する。今持っているのは携帯と、後は――


「千花、見て」
「ん、何?あぁ…ふふ、」


あの日と同じ、秋の大きな月を隠すように、指先を空に掲げると。僕が何をするか心得た様子で微笑む千花。種も仕掛けもございません、と前口上の後に指を何度か擦り合わせると、いつものクッキーが姿を現す。

どうぞ、と手渡すと、千花は嬉しそうにそれを受け取った。


「前見た時より、動きが滑らかになった気がする!」
「そうかな、練習の成果だね」
「…魔法に、練習なんて必要あるの?」

「ふふ、そうだね。僕は魔法使いなんだった」
「そう、周くんは、私の魔法使いさんなの。欲しいものは何でもくれる」
「…何でも、とはハードルが高いね…?」


苦笑すると、彼女も笑い、少し足元が弾む。もう痛みからは気が削がれたらしく、安心する。


「ちなみに今は、何か欲しいものはあるの?」
「ううん、もう貰ったから、大丈夫!」


はて、と考えを巡らせる。あげたものと言えば、そんなにクッキーが欲しかったのだろうか、と――そんな僕の考えは顔に出てしまっていたようで、彼女は少し口を尖らせる。


「もう、周くん、私の事子供扱いしないで」


――子供扱いはやめてよ!
そう、頬を膨らませていた、前に会った時の彼女を思い出す。子供めいた仕草をしておいて何を、とその時は思ったけれど。今は違って、そっと目を伏せる彼女は、随分大人びて見えた。


「…違うよ、子供扱いだなんて、まさかそんな。僕は千花の事、女の子扱いしてるんだよ」
「…それって、子供扱いとどう違うの?」


首を傾げる彼女に笑いかけ、また手を引き、歩き出す。前ならどういう意味なの、としつこいくらいに問いかけてきただろう彼女は、少し俯いて、必死に僕の言葉の意味を考えている様子だった。


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