【テニプリ】a short story.【短編集】
第6章 【菊丸】遠くを見つめる
どの位そうしていただろう、英二が、ゆっくりとこちらを振り向く――そして、心底驚いたような表情を浮かべる。
「にゃっ…!!?もう来てたの、松元!?早く声かけろよなっ!!」
「いやー、随分黄昏てたんだもの。それに、来たばっかりだよ」
「…ほんとにぃー?ま、いーけど、松元ならっ」
にゃはは、と笑って、トン、と軽い身のこなしで隣に飛び下り。行こっか、と先を行く英二。私ならいい、なんて言葉にどきり、としながらその後をついていく私。
もうずっとこんな付かず離れずの関係を続けているのに、今日は何故だか、そのフラフラと所在無く揺れる手を握りたくなった。けど、そうはしないまま。笑い合い、取り留めの無い話をし、歩いていく。今はこれで、充分。
いつかは違う趣きに傾くかもしれない、この親愛の情は、少し冷たい秋風にあっても、私の心をほんのりと暖めてくれるのだから。