【テニプリ】a short story.【短編集】
第6章 【菊丸】遠くを見つめる
部活終わったよん、なんて用件だけのメールを受信して。私は友達との世間話を切り上げ、勢いよく三年六組の教室を飛び出した。
「千花、そんなに急いでデート!?」
「違う違う、いつも通り、英二とだよっ」
いぃなぁ、なんて友人達の羨望の声に背を押され、校舎内をひた走る。夕暮れ迫る廊下は紅く染まって、何処か物悲しい雰囲気が漂っている。昼間はまだまだ暑かったけど、この時間ともなると過ごしやすい気温だ。
夏休みが終わり、新学期が始まってしばらく経った今日。待ち合わせ相手の英二が所属しているテニス部は、三年生の引退などは名ばかりで、殆どの部員がまだ練習に参加していると言う。
とは言え、部活ばかりにかまけても居られなくて。受験だの進路指導だの何だの、内部進学組が殆どにも関わらず、否が応でも自分の将来と向き合わされる――もーつかれた、勉強なんてやってらんない!!昼休み、そう叫んだ私に、久しぶりにゲーセンでも行こうぜー!なんて、英二が声をかけてくれたのだ。
忙しそうな英二を、自分から誘うことは出来なくて。いつも声がかかるのを待つ身の私だけれど、英二が誘ってくれるタイミングはいつも完璧だった。
そう、今日みたいに、担任に成績のことでチクチク言われて沈んでいる時だとか。朝に両親とイザコザがあって、イライラしている時。友達と喧嘩してしまった時、ちょっと気になっていた男子に彼女ができた時――
考えながらも足は確実にいつもの場所へと向かっていて、階段をどんどん上がっていく。いつ、何処で、なんてメールに書かれていなくてもすぐに会えてしまう程には、私達は一緒の時間を過ごしている。
屋上の鉄の扉は重たくて、開閉の度に大きな音が鳴る――でも、それを絶妙なコツを持って、ゆっくりと開く。音も立てず、滑るように開いた扉の先、いつも通り待ち人はそこに居た。この学校で一番高い場所、屋上の給水塔の上。胡座をかいて、遥か遠くを見つめる英二。