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【テニプリ】a short story.【短編集】

第5章 【観月】君と林檎の樹の下で





「…あの、観月さん?なんでしょうか?」


前の椅子に、後ろ向きに座って頬杖をつき。じっとこちらを見つめていた観月さんに、私はとうとう声をかけた。休み時間が始まって、隣のクラスからすぐやって来た彼は、私の前の席の柳沢君に一言二言何か話しかける。すると真っ青な顔色の柳沢君が何処かへ逃げるように走り去り、観月さんがその席を陣取る――

よく見られる光景、そして私の問いかけももう何度目か数え切れない程。毎回似たような答えが返ってくるから、聞いても無駄だし、一々反応しては彼を喜ばせるだけな事は分かりきっている。

それでも、じりじりと射抜かれてしまいそうな視線にとうとう耐え兼ね、私が声をかける。それに満足したようにんふ、と彼が鼻を鳴らし笑う、そこまでが一連の流れだ。



「んふ、気にしないでください、千花さん。今日も貴女は美しい、と見惚れていたまでですよ」


やめて下さい、とも言えず――彼の声色が余りに嬉しそうに聞こえるものだから――とは建前で、彼に見詰められるのが嫌じゃないから、に他ならない。私の事を美しい、などと言う彼はまるで彫刻のように整った笑顔を浮かべている。初めこそからかう者、疎む者も居たが、次第に日常の様になり、気にする者もいなくなった。

それが嬉しくて仕方がない、のを悟られないように下を向く。そして、そう言えば次は苦手な数学だった、と思い当たり教科書の準備を始めた。


「あぁ、そういえば変更があったんでしたね。次は苦手な数学でしたか」
「…私のクラスの時間割変更まで知り尽くしているんですか?」


当然です、と笑う観月さん。思えば私が小腹が空いたな、と思った瞬間に購買のパンを買って現れ、頭痛に苦しむ日は薬を持って現れ、体操服を忘れた日はジャージを持って現れ。そんな彼が時間割変更如きを知らない筈は無いのだ。流石に彼の名前が入ったジャージを着るのは気恥ずかしかった、しかしそれを上回って嬉しかったのを思い出し頬が僅かに緩む。


「そんな千花さんに、僕のノートをお貸ししましょう」
「えっ、いいんですか!?」
「少し授業が進んでいますからね、お役に立てると思いますよ」
「かっ、神…観月さん、神です…!!」


秀才の観月さんのノートがあれば百人力だ、と手を合わせ喜ぶ私。しかし、私は彼を甘く見ていた事に、気付かされる事になるのだ――

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