【テニプリ】a short story.【短編集】
第1章 【千石】片恋ラプソディ
キツい西日が差し込んで、視界がオレンジに染まる。光の中、じっと佇む女の子の姿を見つけて、俺は息を飲んだ――何故、ここに?
いつも通りの光景だ、と気にも止めない様子の部員達を他所に、俺は一人焦って片付けを済ませ、彼女の元に駆け寄る。
「やだ、急がなくてよかったのに」
「…いやいや、オンナノコを待たせるわけにはいかないっしょ?」
――ありがと、千石くん…と、彼女――松元 千花ちゃんは何処か寂しげに微笑んだ。
寂しげなのも当然だろう。千花ちゃんの想い人…南は、今日は部活を休んでいる。二人は幼馴染みだという、その関係で彼女はよくテニス部の練習を見学に来ていた。部活が終わるまで待って、南と一緒に帰っていく、その間に何度となく割入って、三人で帰った事も多い。俺と二人きり、と言うのは初めてだ。
三人で居ると、二人の仲の良さ、一緒にいた時間の長さが見えるだけ辛くなると気付いたのはいつだっただろう。南が練習する姿をじっと見つめ、良いプレーをすると自分の事のように喜ぶ姿から、いつからか目が離せなくなっていたのは。
それに気付いてからというもの、ライフワークのようだったナンパをする気にもなれず。かと言って他の女の子と同じような、軽い感じで千花ちゃんに接する事も出来ない。何せ、彼女は南が好きなんだから――
「あの、」
思いに耽っていた所に、彼女の遠慮がちな声が聞こえて、はっと現実に引き戻される。一言も聞き漏らしたくなくて、いつも通りの笑顔を作って、何なに、どーしたの?と返す。
「今日はあんまり話さないんだね、千石くん」
「えっ?あー、そうかなぁ」
いけない、彼女と2人きりなんて願ってもないチャンスなんだ。南には悪いけど、もっと仲を深めたいのだ――そんな思いとは裏腹に、上手く会話が弾まない。女の子が好きな話題ならいくらでも持っている、なのに、そんな上っ面だけの会話をする気にはなれない。