【テニプリ】a short story.【短編集】
第4章 【跡部】こんな未来が有るのかも知れない
「…っと、また校舎…何処なのー、テニスコートっ」
人っ子一人いない校舎と校舎の狭間で、私はすっかり道に迷っていた。特徴のない同じ見た目の校舎がズラッと並び、同じ所をぐるぐる回ってるだけなんじゃ、とすら思えてくる。
今日は氷帝から、青春学園高等部に練習試合の申込に来ていた。今は春休み期間で、道を尋ねられそうな生徒も、教員の姿もない。
跡部の付き添いで来たはずなのに、初めての場所が興味深くてキョロキョロしている内に奴は何処かに行ってしまっていた。中学の三年間続けていたテニス部のマネージャーを、高三になろうという今も続けている私は、跡部がいくつも持つケータイの連絡先を知り尽くしている。その筈なのに、当の跡部は全く電話にも出ず、メッセージに既読もつかない。
とりあえず、手近にあったベンチに腰掛けてみる。三月というのに少し肌寒い今日。折角桜の蕾も膨らんだのに、開花は遠のいたようだ。一人にされた当初は、他校の制服を着ている自分がうろうろしていて叱られないか、とびくついていたが、人に会わないなら心配する必要も無いか、と気が大きくなってきた――脚をぶらつかせ、空を見上げる。
もうすぐ、本格的な春が来そうだな――
その時、ぱしゃり、というシャッター音が響き渡った。吃驚して居住まいを正し、音の主を探す。カメラを首から下げ、人好きの良さそうな笑顔を浮かべた、こちらを見ている男子生徒と目が合った。