第54章 はじまり　―葵の君＆光秀源氏―

「舞、貴女のほうが少し年上だけど、光る君を貴女の婿にしないか？」

驚きすぎて手にしていた檜扇を落としてしまい、女房がいざり寄ってそれを拾ってくれる。

「…どういうこと、ですの？」

檜扇を開いて顔を覆いながら問うと、兄はにこにこして続ける。

「俺と光る君は友人でもあるんだ。あいつの母は…まぁ桐壺更衣様と少し身分は落ちるものの、父は現帝。桐壺更衣様やご実家の祖母様がお亡くなりになり、他に身内が居ないせいか、現帝が大層お目をかけていらっしゃるんだ」

「おにいさま、お待ちになって。私は現帝のご嫡男、つまり次の帝になられるかたより、入内のお申し入れをいただいてますのよ？」

兄の話しが延々と続くので、私は途中で切り上げさせる。

そう、私の家柄と年齢は、弘徽殿女御様のお産みになられた次の帝となる東宮様と釣り合うから、と入内のお話しがきている、と父様から聞いていたのだ。

私が知っているという事は兄も知っているはず。

なのに、兄は何故、光る君様を私のお相手として推してくるのか…理解が出来なかった。

「光る君には後ろ盾が無い」

私が問うとずばり兄は答える。

「もともとあいつのご実家は既に父上がお亡くなりになっていて、母上が亡き夫の意を汲んで入内させた家だ。そこへ母上がお亡くなりになり、あいつを引き取って育てていた祖母様も無くなり、完全に後ろ盾が無い。言いたい事がわかるか？」

そういうことね、私は何故、兄が光る君様を推すのか、理解する。

後ろ盾が無いから私たちの父様が光る君様の後ろ盾になり、彼のかたの出世の後押しをするために、私との婚姻が必要ということ。