第29章 紫の巻―義元中将－＜R18＞

六条御息所の真意に気付きながらも、知らぬ振りをして、俺は話しを続ける。

「なんとおっしゃる。斎宮の姫君は俺の娘として、お世話をさせていただく所存ですよ。もう以前のような邪な心は、俺もどこかに置いてくる年齢となりました故、ご安心ください」

御息所もわかっていながら、俺に頼むしかない故、くれぐれもと言い含め、やがて具合が更に悪くなり、俺に引き取りを願い、数日してひっそりと息を引き取った。

御息所の亡骸（なきがら）を鳥部野へ送り、御息所は空へ還られた…

その斎宮の姫君の処遇を考え、ふと、思いつく。

我が息子、冷泉帝へ入内させてはいかが、かと。

冷泉帝は誰にも言えないが、俺の息子なので、例え俺に娘がいたとしても、入内させる訳にはゆかない。

兄の朱雀院からもお言葉が有ったが、藤壺女院へ相談し、藤壺女院の後押しも有り、姫君を冷泉帝へ入内させる事と相成った。

姫君とたいして年齢の変わらないものの紫の上こと舞は大層喜んで、姫君の入内の世話をしてくれた。

「義元様が親代わりのご後見なら、私も母代わりでしょ？だったら喜んで姫様の入内のお手伝いをしますね」

有り得ない事だが、一緒に六条邸へ行って姫君に会いに行き、その行動力に六条邸では驚かれたものの、愛らしく非の打ちどころもなく、世話焼きで明るい舞に皆がとりことなり、姫君とすっかり仲良くなったらしい。

「お年が私とあまり変わりないという事ですけれど、神にお仕えになっていらした為か、おっとりと世間知らずでほんとお可愛いらしいかたですわ」