第1章 Destiny
柔らかな陽射しが差し込む窓辺で薄着の男女は無表情のまま見つめ合って肩をすり寄せる。
「春だね」
「そうだね」
いつも通り、互いに淡々とした語り口。
ふいに吹く風に女が鼻をむずつかせ「は、はっ……」と息を細かに吸い込み始めると放射する前に男が口付ける。
「はっ、む……んふ……」
「止まった? くしゃみ」
「うん、お陰さまで」
表情を変えることもなく窓から吹き抜ける春風を体いっぱいに受ける。
先に沈黙を破ったのは女の方だ。
「蛍ちゃん、なんで私にキスするの?」
「あのさぁ。それが僕の仕事だって言ったのはつばめデショ」
「ああ、そうだったね」
「付き合わされてるこっちの身にもなりなよね」
そう言って、また唇を重ねる。
ほんの少しの甘さを滲ませる口付けだが、どちらも酔うことはなかった。