第72章 ♑瞳を閉じても(赤葦京治)
幸せしかないはずなのに
『京治…好き…』
その声は苦しそうに聞こえて
胸がザワザワする
悲しんでる?
まさかな。
誤解は解けたし
俺が姫凪さん一筋なのを
一番知ってるのは本人だし
姫凪さんが悲しむ理由なんか
ないはずだ
「俺も好きですよ
抱っこして行ってあげますから
大人しくしてて下さいね」
『うん…』
大人しく俺の胸に抱かれる姫凪さんを
優しくリビングのソファーに運び
水をくむついでに
弱火を付けたままの
シチュー鍋を覗きかき混ぜると
鈍い感覚がお玉から伝わる
「うわ、チョット焦げたかも知れない
すいません…止めていけば良かったですね」
『…あんまり食べられそうにないから
大丈夫だよ…それより…早く戻って来て』
「え?そんなに気分悪いですか?
とりあえず水分補給して
…身体冷やしますか?」
弱々しい声に慌てて戻り水を手渡すと
『大丈夫…だから
抱いて、京治!』
水を払い除け
俺の唇を奪う姫凪さん